日本の音楽の、特にロックシーンに、音源を発表している「女性ギタリスト」の存在、特にソロ・アーティストとしての存在は、今までにほとんどなかった。なかなか、育ちにくい環境だし、逸材となると、皆無な状態だ。近年、音楽の専門学校の増加により、女性ミュージシャン志望の子達も増え、女性だけのバンド、通称「ギャルバン」なるものの存在が、恐ろしく増えた。「けいおん」もそんなシーンでのヒットアニメであろう。そろそろ、逸材の女性ギタリストの存在が待たれていた時期でもある。
そんな中、ソロアルバム「Messiah」を制作して、世に登場したのが、Rie a.k.a. Suzakuである。本物のロック・ギタリスト、本物のメタラーを目指して、ギタリストとしての基本的なテクニックはもちろんのこと、魂の叫びをも感じさせるギターソロでも魅了させてくれる。しかも、既存アーティストの楽曲を演奏するような、希薄な内容ではなく、楽曲もすべて、自身でコンポーズし、それまで活動してきた、数々のバンド経験の中から生み出して、演奏してきた、熟れた楽曲達でもある。レコーディングは、二日間で仕上げ、ミックス&マスタリングには、『凜として時雨』を手がける、名エンジニアの「采原史明氏」を迎え、斬新なアイデアを多様して、完成させたサウンドになっている。2010年6月のレコーディングの日、都内某スタジオの下の階のリハーサルスタジオでは、ちょうど、『凜として時雨』の新譜のための、リハーサルが行われていたようだ。彼女の登場によって、ただのギタリストのデビューとしてでなく、「女性ソロギタリスト」の登場と存在価値を、改めて喜びたいと思う。

参考までにだが、Rie a.k.a. Suzakuの「a.k.a.」とは、「also known as」の略で、別名、通称、ニックネームなどの意味である。近年、アーティストや、ミュージシャン達の間で、流行している、アーティスト名の表現の一つでもある。

HMV ONLINEでも注目していただいています。
http://www.hmv.co.jp/news/article/1011260067/

1. End of the darkness
アルバム1曲目の、この曲は、Rie a.k.a. Suzakuが、最近手にした、シェクターの7弦ギター、「HELLRAISER C-7 FR」、しかも半音下げチューニングで、低音のエッジの効いたリフと、印象的なギターソロ、ヘビーな音質だけでなく、クリーントーンも効果的に使った、絶妙な曲だ。featuring vocalには、盟友、若干ハタチの「IBUKI」が熱唱。彼女は、以前、Rie a.k.a. Suzakuが組んでいたバンドで、一時ヴォーカリストとして参加していた、シャウト系の、当時の、「浜田麻里」を思い出させてくれる、エッジの効いたハイトーン・ヴォイスを得意とする、今後期待のロック・シンガーだ。目に見えない闇に向かって突き進んで行き、その果てに未来が見えてくるのか!これは現代社会に対する不安感や、政治的なメッセージをも含む、本人の感じた憤りや怒り、そんなテーマの曲となっている。CDを手にした多くのリスナーから、完成度の高い楽曲との評判を得ている。YouTubeなどにも、ライブやスタジオリハーサル・シーンで構成された、PVがアップされているので、必見!
http://www.youtube.com/watch?v=Z0zNdXuIklg
2. Chaos
Chaosと題された、この楽曲の意味は、おそらく、「決定論的予測不可能性」。壮大なスケール感を感じさせ、かつ印象的なソロを盛り込み、どっしりと構えた、ベビー級の王道の楽曲である。後半は疾走感も感じさせ、抜群の構成力で、聴くものを、Rie a.k.a. Suzakuの世界に浸してくれる。ギターは、USA製 Jackson Randy Vを使用。ジャクソン社から販売されている、ギタリスト「ランディ・ローズ」のオリジナル・シェイプで、ドクロのペインティングのされた、Rie a.k.a. Suzakuのお気に入りギターだ。数年間使用している中で、ピックアップなど、数カ所の手を加えている様子。featuring vocalは、数々のバンド経験を持ち、メジャーデビューも果たしている、「Dia」。彼女は、Gothic metal band「Darkness Rose」のヴォーカル、Classical crossover unit「Sala Stayme EVERIS」のヴォーカルという、多面な活躍をされている、スーパー・テクニカル・ヴォーカリストだ。Rie a.k.a. Suzakuが、かつてヴォイストレーニングを習っていた、先生でもある。そんな経緯もあって、オフステージでは、バンドメンバーも含め、「先生」と呼ばれている。野太い、中低域のメロディーラインを奏でる際の彼女のヴォーカルは、ゾクッと切り込んでくるような印象で、鳥肌ものである。
3. Heaven
一瞬、恋愛関係がテーマの楽曲かと思いきや、数年前に亡くなった、彼女の祖母との触れ合いがテーマ。今回のアルバムでは、唯一のバラード楽曲だ。やさしさと、力強さの両面で構成し、イントロは、アコースティック、Randy Vを使用してのクリーントーンも織り込み、壮大な空間を感じさせる、スケール感溢れるギターソロも、絶妙だ。featuring vocalは、まだ無名の新人ではあるが、現在、「水鏡(ミカガミ)」という、アコースティックユニットで、都内ライブハウスやストリートで活躍中の、「馨(かおる)」。Rie a.k.a. Suzakuが、2010年春に、偶然見に行った、アコースティック・ライブ・イベントで、エッジの効いた、やさしさとパワフルさを兼ね備えた、ヴォーカルの馨に惚れ込み、スカウトした形で、今回1曲参加となった。
4. Fly away
変拍子たっぷりの、この楽曲では、ドラムの「ISAMU(本名は田丸勇)」の本領発揮で、素晴らしいパワー&テクニカルドラムを叩いている。彼は、Rie a.k.a. Suzakuの前バンドの、ドラマーで、もっとも信頼する、ミュージシャンだ。日本の音楽シーンにおいて、異彩かつ強烈な個性を放つROCKバンド「夜叉」のドラマーであり、日本へヴィーメタル界の超大御所バンド「ANTHEM」のサポートでも活躍している。楽曲は、タイトル通りの、空に向かって飛翔するイメージがテーマで、スピード感、スケール感溢れる印象だ。ギターは、Randy Vを使用。駆け上がっていく印象のギター・ソロは、聴いていて、とても気持ちのいい疾走感で、何度も聴きたくなる感じだ。featuring vocalは、「Sattin(さっちん)」こと、朝丘紗智。彼女は、現在、アコースティック・ユニット「5 minutes on foot」で、都内ライブハウスや、イベント出演で活躍中。元々、レースクイーンや、モデル、更にソロ・ロックシンガーとしてCDを2枚出してしている彼女は、ハスキーな声質から、SHOW-YAのヴォーカル、「寺田恵子」系のヴォーカリストとして、当時話題を集めた。今回のこの楽曲では、ハスキーでハイトーン系も絞り出す印象で、ハデ目に歌い上げて、テーマである「飛翔」感を盛り上げている。今回は、所属レーベル代表の知人という繋がりで知り合い、互いのその音楽的素質に共感して、参加する事となった。ちなみに、ラスト付近の、超ハイトーンのコーラス部分は、「IBUKI」が勤めている。
5. Messiah
アルバムのタイトルナンバーでもある、この楽曲は、Rie a.k.a. Suzakuが、2006年ごろに書き上げた、6分35秒の大作である。本人談では、当時通っていた、音楽スクールの課題で、「メタル系の楽曲」を提出するという内容で、一晩で書き上げたとの事。それにしては、抜群の構成力で、聴かせ所満載である。ライブでは、おなじみのナンバーだが、今回、歌詞を見直し、更に洗練された内容となった。メシアとは、人類みずから招いた、愚かな行動により、滅び行く地球に対する、救世主の意味。シャチのトレーナーにもなりたかった、Rie a.k.a. Suzakuの、環境問題にも触れた、歌詞であるが、スピード感溢れる、王道のメタル系サウンドで、リスナーをノックアウトさせる。ギターは、もちろんRandy Vを使用。ソロでは、かなり難しいことを、サラッとやっていて、本人は、あまり得意ではないと言っている、タッピングを、後半では魅せてくれる。featuring vocalは、「IBUKI」。彼女も、前バンド参加の際より唄っているので、レコーディングもスムーズに完了したようだ。ライブでは、イントロより、シャウトして、最高に盛り上げている。YouTubeで、Rie a.k.a. Suzakuと、IBUKIの二人の絡みで制作されたPVを試聴できるので、これも必見!
http://www.youtube.com/watch?v=Z6zFwWO9kUk
6. Lost
ミドルテンポの、この曲は、シンセ音が効果的に使われており、空間系の、ハモリ有りのギターソロとのバランスが絶妙だ。ギターも、シェクターの7弦を使用。という事は、最近産まれ出た楽曲ということだろう。低域のどっしりとした安定感のあるリズムと、エモーショナルな、ブレイク部分も、広い世界感をリスナーに与えてくれる。featuring vocalは、再登場の「Dia」。やはり、中低域の歌が、エッジの効いたナイフのような切れ味だ。ヴォーカルラインが、一部、掛け合いのようになっていて、小気味よい流れとなっている。ライブでの表現が気になるが、サブでヴォーカルを入れるか、Rie a.k.a. Suzakuが、その部分を唄うことに期待したい。現代社会の様々な問題を抱えた現実や闇の部分、そこで失われた、愛や感情を取り戻す、と言った情念をも感じさせる、テーマが、Diaのパワフルな声を通して、リスナーの心臓目がけて、突き刺さる。Rie a.k.a. Suzakuが、一番表現したかったキラーチューンだ。
7. Suzaku
CD発売の少し前から、YouTubeにPVが登場して、話題となった、インスト曲。当初この楽曲は、CDには収録されない予定だったが、PV先行形で、Rie a.k.a. Suzakuのテクニカルなギターワークを存分に楽しませたいという、レーベルからの強い要望で、ボーナストラック的な扱いの意味もあって、収録となった。この楽曲のみ、リズム隊が生ではなく、本人が自宅で、ドラムなどを、打ち込みで制作している。ベースは、姉が以前購入して所有していた、ベースを借りて、本人が演奏しているようだ。楽曲としては、2007年に、ヤングギターのDVDでのデモ演奏を収録した映像でも、原曲を披露している。本人曰く、「羽をひそめて暗闇に閉じこもっていた鳥が、壁を乗り越え暗闇から空へと飛び立っていく姿を描いた曲なんです☆」と話しているように、伝説の鳥「朱雀」が、テーマ。キャッチコピーにも書かれている、「天空へ飛翔」をイメージテーマとして、空間や、スケールの壮大さを、表現した作品だ。和風の音ネタも、演出として、効果的に使われており、細かいリフや、ソロ部分、ペンタトニックスケールでの指さばきなど、スウィープ奏法、タッピング奏法も盛り込んだ、ギターで、唄わせ魅せる要素満載のインストである。
http://www.youtube.com/watch?v=sVG-vFpywxg
  今回は、デビュー・ミニ・アルバムという形で、厳選した7曲を、集中してリスナーに聴いていただこうという内容で、約30分の、人間が集中して聴けて、飽きのこない、そして、もっと聴きたい衝動に駆られるボリュームだ。既に仕上がっている曲や、次回作に収録予定の曲も含めると、20曲くらいのレパートリーを保有しているとの事。次回作もまた、ミニ・アルバムになるのか、フル・アルバムになるのか、楽しみなところだ。

 

 

 

 
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